なぜ日本では電気自動車が普及していないのか。他先進国とは異なる背景を徹底解説

EV全般

世界的な脱炭素の流れを受け、電気自動車(EV)は地球の未来を担う存在として注目されています。欧米や中国ではEV市場が急速に拡大していますが、日本では電気自動車の普及が遅れているのが現状です。なぜ日本ではEVがなかなか普及しないのでしょうか?

本記事では、充電インフラの不足や根強い誤解、さらには日本独自の自動車産業の構造といった、EV普及を阻む5つの要因を徹底的に解説します。EVのメリット・デメリットも踏まえ、日本のEV普及を加速させるための具体的な対策も提案します。

結論:日本で電気自動車が普及していないのは、インフラ整備と間違った認識が広まっている点が原因

日本では、電気自動車(EV)の普及が遅れている大きな要因は、充電インフラの脆弱さと、間違った認知の拡大です。

1つ目は、充電インフラの脆弱さです。 経済産業省のデータによると、2023年3月末時点での充電器(急速+普通)の設置数は全国で約3万基。 これは、ガソリンスタンドの約3分の1に過ぎません。 しかも、そのうちの88%は出力が50kW以下の急速充電器で、90kW級の急速充電器は全体の12%程しかありません。 30分程度の充電では、十分な航続距離を確保できないのが現状です。

2つ目は、EVに関する間違った認識が広まっていることです。 「充電に時間がかかる」「航続距離が短い」「価格が高い」といった情報が、 インターネットやメディアで拡散されています。 しかし、これらの情報は必ずしも正確ではありません。 例えば、最近のEVは300kWを超える急速充電に対応して、20分で8割まで充電可能な車種も存在します。 (ヒョンデ IONIQ 5など。)航続距離も年々伸びており、500km以上走行可能なモデルも珍しくありません。

このような誤解や不安感が、消費者のEV購入意欲を阻害しているとも言えるでしょう。

電気自動車を日本で普及させるメリット

EVの普及は、地球温暖化対策に大きく貢献します。 走行時にCO2を排出しないEVは、日本のCO2排出量の約18%を占める自動車からの排出量削減に貢献し、脱炭素社会の実現を後押しすることは確実です。

 国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、EVは製造段階でCO2排出量が多いものの、ライフサイクル全体(製造時から廃車まで)でみるとガソリン車よりも排出量が少ないとされています。 また、エネルギー効率の高さから、化石燃料の使用量削減にもつながります。

 エネルギー自給率がわずか11.8%(2021年度)の日本にとって、これはエネルギー安全保障の観点からも重要なメリットと言えるのではないでしょうか。

経済効果も期待できるでしょう。

 EV関連産業の発展や雇用創出、充電インフラ整備による新たなビジネスチャンスの創出など、経済活性化に貢献する可能性を秘めています。 例えば、経済産業省の試算では、2030年までにEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の普及率を30%にすることで、国内総生産(GDP)を約4兆円押し上げる効果があるとされています。 

EVの普及は、持続可能な社会の実現と経済成長の両立を目指す日本にとって、大きなチャンスとなるかもしれません。

電気自動車が日本で普及していない5つの原因

欧州では新車販売台数の2割程度を電気自動車が占めている中、日本では新車販売台数の2%未満と、先進国にも関わらず日本は大きく遅れをとっています。

ここからは、なぜ日本で電気自動車が普及していないのか、その根本的な原因を5つ紹介していきます。

原因1:充電インフラが脆弱

2023年3月末時点で、全国の急速+普通充電器の設置数は約3万基。 これはガソリンスタンドの約3分の1に過ぎず、特に集合住宅では充電環境が十分とは言えません。

さらに、充電器の出力にも課題があります。 欧州では350kW級の超急速充電器の普及が進み20分で80%の充電が可能なEVも増えています。 一方、日本では50kWの充電器が主流であり、最近普及している機種も90kWがほとんどです。

 充電時間の長さは、EVユーザーにとって大きなストレスとなり、普及の妨げとなっています。

充電インフラの整備は、EVの利便性を高める上で不可欠です。 充電スポットの増加だけでなく、高出力の急速充電器の設置、集合住宅への充電設備の導入など、多角的な対策が求められています。

原因2:電気自動車に関する間違った認識が広まっている

「充電に時間がかかる」「航続距離が短い」「価格が高い」といった情報が、インターネットやメディアで拡散され、EVに対するネガティブなイメージが先行しています。

しかし、これらの情報は必ずしも正確ではありません。 最新のEVは著しい進化を遂げており、中国市場では15分ほどで80%まで充電できるモデルも存在します。 航続距離も年々伸びており、1,000km以上走行可能な電気自動車も登場しはじめました。(Zeekr 001など) 正しい情報発信と、EVの試乗体験などを通じた理解促進が求められます。

原因3:日本の自動車メーカーが電気自動車に強くない

日本の自動車メーカーは、ハイブリッド車(HV)の開発に注力してきたため、EVの開発では欧米や中国のメーカーに遅れをとっています。 

世界的にEVシフトが進む中、日本メーカーのEVモデルのラインナップは少なく、魅力的な選択肢が少ないことがEV普及の妨げとなっていることは原因の一つと言えるかもしれません。

2023年上半期のEV販売台数ランキングでは、トップ10に日本メーカーの車は1つもランクインしておらず、ガソリン車市場も含めて2023年世界で最も売れた自動車はテスラ・モデルY)このことからも、世界的なEV開発競争において、日本メーカーが遅れをとっている現状が浮き彫りになっています。

原因4:日本で買える電気自動車の選択肢が少ない

国内外の自動車メーカーを合わせても、日本で販売されているEVモデルの数は限られています。

2023年時点で、国内で販売されているEVモデルは約30車種。 これは、ガソリン車やハイブリッド車(HV)の車種数が数百種類あることと比べると、圧倒的に少ない数字です。 特に、軽自動車やコンパクトカーなど、日本の道路事情に合った小型EVの選択肢が少ないことが、EVの普及を妨げる一因となっています。

例えば、軽自動車EVは日産サクラと三菱eKクロスEVの2車種のみ。 コンパクトカーEVも、日産リーフ、ホンダe、プジョーe-208など、数えるほどの選択肢しかありません。 SUVやミニバンなど、ファミリー層に人気のカテゴリーでも、EVの選択肢はトヨタbZ4X、日産アリアなど、非常に限られています。 

また、価格帯も高額なモデルが多く、手が届きやすい価格帯のEVが少ないことも課題です。 補助金を利用することで購入しやすくなるものの、例えば日産リーフは補助金込みでも約330万円からと、同クラスのガソリン車よりも高額です。

原因5:日本の自動車メーカーが水素を推進している

一部の日本の自動車メーカーは、EVの開発とともに、水素自動車の開発をしている企業があります。

水素ステーションの整備など、水素自動車の普及には多くの課題がありますが、政府も水素社会の実現を掲げており、EVだけを推進しているわけではありません。

しかし、水素自動車の技術開発やインフラ整備には莫大なコストがかかるため、EVと水素自動車のどちらを優先すべきか、議論が必要です。

特にトヨタ自動車は水素自動車の開発に力を入れており、MIRAIなどのモデルを販売していますが、販売台数はEVに比べて少ないのが現状です。 

2023年上半期のトヨタMIRAIの販売台数は約1,200台にとどまり、これは同時期に国内で販売されたEV全体のたった約4%に過ぎません。 また、水素ステーションの数は全国で約160ヶ所(2023年9月時点)と、EVの充電スポットと比べても圧倒的に少ない状況です。

また高額な車両価格や低すぎるリセールなど、現状では水素自動車が普及する未来は遠いように考えられます。

日本で電気自動車を普及させるために必要なこと

日本で電気自動車が普及していない問題点を整理した上で、実際に日本で電気自動車を普及させるには具体的にどのようなことが必要なのでしょうか。

ここからは、電気自動車を日本で普及させる具体的な策として、以下の3つを解説します。

  • 充電インフラを普及させる
  • 電気自動車に関する正しい情報を発信する
  • 企業がより電気自動車を開発しやすいように、国からの補助金を増額する

対策1:充電インフラを充実させる

電気自動車に関する最大の障壁と言えば、その長い充電時間です。近年普及している600km以上走れる電気自動車には大容量のバッテリーが搭載されていることが多く、実際にWLTCで700km走行可能なメルセデスEQS450+は約108kWhの電池容量を有します。

現状の日本で多く普及している50kWの急速充電器でEQSの108kWhのバッテリーを8割充電するのにかかる時間は、単純計算でも1.9時間かかり、実際はもっとかかります。実用的な充電環境とはお世辞にも言えません。

集合住宅に住んでいる方など基礎充電環境を用意できない方にとって、短時間で充電が終わるかどうかは重要な点です。そのためにも、欧州で普及している350kW急速充電器のような高出力な充電インフラが必要だと考えます。

充実した充電インフラという表現をより具体的にすると、下記のようになると考えます。

  • マンション等の集合住宅への充電器設置:集合住宅の多い日本だからこそ、集合住宅にも基礎充電環境を
  • 高出力で、使い勝手のよい急速充電インフラの普及:高出力な充電に対応したEVの性能を十分に発揮できるスペックの充電器を
  • 充電料金の透明化:低出力の受電能力な軽EVでも公平な充電料金体系の導入を
  • 軽量なケーブルなど、誰にでも扱いやすい充電器の普及:高齢者や障がい者の方でも扱いやすい充電器を

対策2:電気自動車に関する正しい情報を発信する

「充電に時間がかかる」「航続距離が短い」「価格が高い」といったEVに関する誤解や偏見は、普及を妨げる大きな要因となっています。 政府、自動車メーカー、メディアなどが、EVのメリット・デメリットや最新技術に関する正確な情報を積極的に発信することが重要です

実際、最近では20分未満で充電が終了するEVも少なくなく、昔のネガティブな印象が根付いている現状をどうにかしなければなりません。

例えば、

  • EVの試乗体験会: 実際にEVに乗る機会を提供し、その魅力を体感してもらう。
  • EVに関する情報ポータルサイトの開設: EVに関する様々な情報を集約し、消費者が簡単にアクセスできる環境を整備する。(弊サイトがその例)
  • メディアを通じた情報発信: テレビ、新聞、雑誌など、様々なメディアを通じてEVに関する情報を発信する。

など、多くの対応策が考えられます。

対策3:企業がより電気自動車を開発しやすいように、国から補助金を増額する

EVの開発には多額の費用がかかるため、企業がEV開発に積極的に取り組めるよう、国は補助金制度を拡充する必要があります。 経済産業省の「グリーン成長戦略」では、2030年までにEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の普及率を30%にする目標を掲げていますが、現状の補助金制度では目標達成は難しいかもしれません。

2023年度のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)の予算額は1,042億円。 これに対し、2022年度のEV販売台数は約5.9万台、補助金申請件数は約4.8万件でした。 単純計算で1台あたり約217万円の補助金が交付されたことになりますが、実際の補助金額は車種や性能によって異なり、最大でも85万円となっています。 しかし、2024年度の補助金額を決定する基準は2023年度より厳しくなり、BYD Atto3に関しては85万円から35万円まで減額されていまいました。

また、補助金の対象範囲を広げることも重要です。 EV本体の購入費用だけでなく、EV関連技術の開発なども補助対象とすることで、企業のEV開発への投資を促進することができるかもしれません。 さらに、税制優遇措置や規制緩和なども組み合わせることで、企業にとってより魅力的なEV開発環境を整備することができるでしょう。

まとめ

日本のEV普及の遅れは、充電インフラの不足、EVに対する誤解、自動車メーカーのEV開発の遅れ、車種ラインナップの少なさ、そして水素自動車への注力といった複合的な要因が原因です。 

これらの課題を克服し、EV普及を加速させるためには、充電インフラの整備、EVに関する情報発信、EV開発への投資促進、多様なEVモデルの投入、そしてEVと水素自動車のバランスを考慮した政策が不可欠でしょう。

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