近年話題になる機会が増えてきた電気自動車ですが、一部では、「環境に良くない」という声を耳にすることもあります。
環境に良いというイメージが根強い電気自動車ですが、なぜ今になって「電気自動車は環境に良くない」と言われているのでしょうか?
本記事では、電気自動車が環境に悪いと言われている理由と、実際のデータなどを調べていき、この問題の正しい見解を見つけていきます。
結論:見方によっては電気自動車は環境に悪い
結論から言うと、「電気自動車は環境に悪い」という意見は、正しくもあり、間違いでもありました。
端的にまとめると、製造時における電気自動車の二酸化炭素排出量は、通常の内燃機関車(ガソリン車)に比べかなり多く排出すると言われています。しかし、製造から廃車までのライフサイクルでみると、結果として電気自動車の二酸化炭素排出総量は内燃機関車より少なくなるのです。
こう結論つけた理由について、ここから解説します。
電気自動車のメリットとデメリット
電気自動車が環境に与える影響に関して知る前に、そもそも電気自動車を選ぶメリットとデメリットを知っておく必要があります。
ここでは、それぞれ5つずつ紹介します。
メリット
- 走行中のCO2排出量ゼロ:走行中は地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないため、大気汚染の改善に貢献します。
- エネルギー効率が良い:ガソリン車に比べてエネルギー効率が良く、同じエネルギー量でより長い距離を走行できます。IEAのデータによると、電気自動車のエネルギー効率はガソリン車の約3倍です。
- 静粛性が高い:エンジン音がなく、静かな走行が可能であるため、騒音問題の解決にも繋がります。
- 燃料費が安い:電気代はガソリン代よりも安いため、ランニングコストを抑えられます。資源エネルギー庁の試算によると、電気自動車の燃料費はガソリン車の約1/3です。
- 加速性能が良い:モーター駆動のため、低速からトルクが得られ、力強い加速が可能です。
デメリット
- 車両価格が高い:ガソリン車に比べて車両価格が高いため、初期費用がかかります。例えば、日産リーフの価格は約330万円からですが、同クラスのガソリン車であるノートは約200万円からです。しかし、補助金が適用されるケースがほとんどであるため、ガソリン車との実質的な差は縮んできています。
- 航続距離が短い:一度の充電で走行できる距離が短いため、長距離移動には充電が必要になります。テスラモデル3の航続距離は約600kmですが、トヨタプリウスであれば1回の給油で1,000km走行できる場合があります。
- 充電規格が統一されていない:現在国内では、テスラが独自のNACSという充電規格を採用していますが、その他のメーカーはCHAdeMOという充電規格を採用しています。
- 充電時間が長い:急速充電でも30分程度かかるため、ガソリン車のように短時間でエネルギーを補給できません。
- 寒冷地での性能低下:電気自動車にはエンジンがないため、冬場に暖房を使用する際に電気を多く使用します。これにより、10数%程度後続可能距離が減ることがほとんどです。
電気自動車が環境に悪いと言われている理由
電気自動車が環境に悪いと言われる主な理由は、以下の3つです。
バッテリーの生産に多くの二酸化炭素を排出している
電気自動車のバッテリーは、リチウムやコバルトなどの希少金属を使用しているケースがあり、その採掘や精製には多くのエネルギーが必要です。
この過程で大量の二酸化炭素が排出されるため、環境負荷が高いとされています。
Polestarの調査によると、電気自動車のバッテリー製造段階での二酸化炭素排出量は、ガソリン車の2倍以上との結果が出ています。
具体的には、電気自動車1台分のバッテリー製造で排出される二酸化炭素は約8トン、ガソリン車では約3.5トンです。
車体の製造に使うアルミニウムの生成で二酸化炭素を排出している
電気自動車の車体は、軽量化のためにアルミニウムを多く使用しています。ボーキサイトからアルミニウムを精錬するには大量の電力を消費するため、二酸化炭素の排出量が増えるのです。
火力発電で充電したら、走行中にも二酸化炭素を排出していることになる
電気自動車の充電に使用する電力が、火力発電で発電されたものであれば、間接的に二酸化炭素を排出していることになります。
本当に電気自動車は環境に悪いの?実際のデータから参照してみると…
製造時に電気自動車が多くの二酸化炭素を排出することが分かりました。しかし、自動車が二酸化炭素を排出するのは製造時だけではありません。走行時から廃車時まで含めると、実際はどうなのでしょうか。
ここからは、自動車の製造から廃車までのライフサイクルでみた場合の環境に対する影響を調べていきます。
走行中は内燃機関車に比べ圧倒的に環境にやさしい
走行段階では電気自動車は圧倒的に環境にやさしい点は事実です。
ガソリン車は、走行時にガソリンを燃焼させることで動力を得るため、二酸化炭素を排出します。一方、電気自動車は走行中に二酸化炭素を一切排出しないため、地球温暖化対策に大きく貢献します。
例えば、経済産業省の試算によると、ガソリン車が1km走行する際に排出する二酸化炭素は約164gですが、電気自動車は排出量がゼロです。この差は、走行距離が長くなるほど大きくなり、電気自動車の環境性能の高さを際立たせます。
製造から廃車までのサイクルで考えると、最終的には電気自動車の方が二酸化炭素排出量が少ない
電気自動車のライフサイクルCO2排出量は、ガソリン車よりも少なくなるという研究結果が多数報告されています。
例えば、2023年の欧州環境庁(EEA)の調査では、電気自動車のライフサイクルCO2排出量は、欧州の平均的な電力で充電した場合、ガソリン車の約55%です。
また、日本の国立環境研究所の試算でも、電気自動車はガソリン車に比べてライフサイクルCO2排出量が約30%少ないという結果に。
テスラの2020年インパクトレポートでは、同社のモデル3の場合、平均的なガソリン車と比較して、ライフサイクルCO2排出量が約69トンも少ないと報告されています。
これは、ガソリン車が生涯に排出するCO2の約半分に相当します。
電気自動車を火力発電で充電したら本末転倒?
この疑問に対する答えは、「電力をどこから調達するか」によって大きく変わります。
例えば、国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、石炭火力発電の割合が高い地域では、電気自動車のCO2排出量はガソリン車と同等、もしくはそれ以上になる場合もあります。
一方、再生可能エネルギーの割合が高い地域では、電気自動車のCO2排出量はガソリン車よりも大幅に少なくなります。例えば、ノルウェーでは電力のほとんどが水力発電で賄われているため、電気自動車のCO2排出量はガソリン車の約半分です。
日本においては、火力発電の割合が依然として高く、2021年度の電源構成では約75%を火力発電が占めています。
しかし、日本政府は2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めており、将来的には火力発電の割合が減っていく見込みです。
そうなれば、電気自動車の環境性能はさらに高まり、CO2排出量削減に大きく貢献することが期待できます。
バッテリーの処分における問題
電気自動車(EV)の普及が進むにつれ、避けては通れないのが使用済みバッテリーの問題です。
EVのバッテリーには、レアメタルや有害物質が含まれており、適切に処理されなければ環境汚染を引き起こす可能性があります。
また、国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、2030年には世界で年間140万トンもの使用済みEVバッテリーが発生すると予測されています。
この膨大な量を適切に処理できなければ、EVの普及は新たな環境問題を生み出すかもしれません。
しかし、近年ではバッテリーのリサイクル技術が進歩しています。使用済みバッテリーからリチウムやコバルトなどの希少金属を回収し、再利用する取り組みも活発化しています。
例えば、日産自動車と住友商事グループは、使用済みバッテリーを再利用して家庭用蓄電池を製造する事業を展開しており、テスラもバッテリーのリサイクル率を92%まで高める目標を掲げました。
まとめ
電気自動車が環境に悪いという話は、一部真実でもあり、間違いでもありました。製造時の二酸化炭素排出量は確かにガソリン車より多く、短期的には環境に負荷をかけています。
しかし、製造から廃車までのライフサイクルでみると、実際にはガソリン車よりかなり少ない二酸化炭素排出量に抑えられ、結果的には環境問題の改善につながるでしょう。
まだ発展途上の電気自動車ですが、これからの進化に期待です。
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